東日本大震災から14年。福島第一原発の事故によっていまも多くの人が故郷を離れて生活を続けている。今回のラジオでは原発事故をきっかけに
島根県松江市で暮らす桑原達治さん(福島県双葉町出身)をお迎えした。
行き場のない憤り―それでも「罪を恨んで人を憎まず」
震災前、桑原さんにとって原発は非常に身近な存在だった。父親が原発関連会社に勤めており家庭でも原発の話を聞くことが日常だった。近隣にあったPR館へ子ども会や学校の遠足で頻繁に出かけていたという。そのため、危険や反対といった意識は全く持っていなかったそうだ。
しかし、桑原さんは2011年の原発事故によって故郷と自宅を失った。「ふるさとを奪われた」という喪失感から、自然と原発に対して憎しみに近い感情を抱くようになった。ただし東京電力の社員を恨んでいるわけではなく「不運が重なって起きてしまった事故」と受け止めている。桑原さんは自身の今の気持ちについて「罪を恨んで人を憎まず」と語った。
自宅解体「苦渋の決断」
2021年、放置されたままの自宅を解体した。地震で屋根が崩れその後は雨漏りやネズミ・イノシシの被害が続出。やむを得ず解体に踏み切ったという。思い出の品や写真などを少しずつ持ち帰ったが多くは処分することになった。遠く離れた島根県から通うことの難しさもあり苦渋の選択であった。
「なるべく迷惑をかけたくない」と思う、障害持つ人の災害時
桑原さんは脳出血になり左半身に麻痺が残る。現在もリハビリを続けている。そのため災害時には次のような不安を抱えているという。
・高台への避難が体力的に難しい。
・津波のスピードに追いつけるか不安である。
・避難所での生活環境(ベッドやプライバシーの確保)が十分でない可能性がある。
特に印象的なのは「障害を持つ人はなるべく人に迷惑をかけまいと頑張ってしまう」という言葉だった。いざという時、支援をお願いできる雰囲気づくりが重要だと考えさせられた。
「都市が電気を使っている」。リスクを地方だけに押し付ける構図はおかしい!
桑原さんが現在暮らす島根県では島根原発2号機が稼働している。原発への想いを桑原さんは次のように語った。
・火力発電はCO2を排出し、再生可能エネルギーは不安定である。
・だからといって原発が「安全」と言い切れるわけではない。
・放射能は目に見えないため人々が「得体の知れない恐怖」を抱きやすい。
そして何より、地方にリスクを押し付け都市部が電力を大量に消費する構図に疑問を投げかけた。「電気を使うのは全国の人々なのだから発電や廃棄物処理の問題についても都市部の人々が一緒に考えるべきだ」と訴えている。
原発事故が残した「分断」と「不公平」を乗り越える
桑原さんは放送中、原発事故について「罪を恨んで人を憎まず」と語った。この境地に達するまでに、どれほどの怒りや悲しみを桑原さんが乗り越えてきたのだろうか。きっとそれは私たちの想像をはるかに超えるものである。
原発事故が残した「分断」と「不公平」をどう乗り越えるのか。障がいや年齢に関わらず誰もが災害時に安心できる仕組みをどうつくるのか。これらの問題をみんなで考えなければならない。桑原さんをお迎えしてその大切さをひしひしと感じた。(ラジオ学生加藤)
