「地域の自然資本はその地域のアイデンティティだ」。 生物多様性守る「持続可能な林業」を実践

715日火曜日の「みんな崖っぷちラジオ」では、ゲストに林業会社・青葉組/山鳥舎の鈴木由清さん(33)を迎え、山の保全と造林・湿地づくりについて放送した。

 幼少期、チョウの幼虫がナミアゲハではなくクロアゲハに羽化したことに衝撃を受けて生き物に魅了された鈴木さん。地元鹿沼の自然観察会に参加し、生き物・自然に関わりたいと想い続け、進学を機に上京後、鳥類調査の仕事をしていた。現在は鹿沼に戻り「自然資本の成長」をテーマに林業の新たなビジネスモデルを模索する青葉組㈱に勤めながら、造林・湿地づくりの個人プロジェクト「山鳥舎」や仲間とのユニット「こさば」での活動も行っている。

 

鳥類調査から「山を保全しながら成り立つ林業」への転身

 

鈴木さんは鳥類調査員として、ダム建設や高速道路建設に伴う環境アセスメント(希少生物の生息調査)に携わっていた。特に猛禽類の調査では、その生息環境である森の生態系をより深く理解する必要性を感じたという。また、環境調査では保全策を提案するだけで、実際の山の管理に踏み込めないことに限界を感じたことが、林業へ転身するきっかけの1つだったと語る。人が所有する「民有林」にも鳥たちが暮らしていることに着目し、地元で盛んな林業を通じて、より直接的に山の保全に関わりたいと考えるようになった。

 鈴木さんが行う「造林」は、素材生産が終わった後に、再び山を育てる仕事である。具体的には、伐採した山で取りこぼした丸太や散らばった枝葉をまとめる「地ごしらえ」や「植樹」、苗木の育成のために下草を刈り払う「下刈り」などで、これらを青葉組㈱と個人プロジェクト山鳥舎の両方で行なっている。両者に大きな違いはなく、依頼主によって棲み分けがなされている。

 日本の林業は「素材生産」と「造林」を分けて考えていることが問題であると鈴木さんは話す。分業の大きな問題として、再造林の放棄が挙げられる。また、素材生産だけを考えて作業すると造林の仕事の負担が大きくなり、結果的に効率の悪い林業になる。具体的には、苗木を植えるのに適した場所を、素材生産の方が集材後に造材する場所として使ってしまうことが挙げられる。

 

ただ植え、保育するだけではない造林の仕事をアップデート

青葉組㈱がテーマにする「自然資本」は単に木材や水といった商品としての価値だけでなく、それらを支える生き物、岩石、土壌、独自の景観など、山全体を包括的に「価値ある自然」として捉える考え方だ。青葉組㈱は、「ただ苗木を植え、保育するだけ」のイメージが強かった造林の仕事に「自然資本の造り手」という価値を付与し、新しい林業の形を模索し続けている。このような取り組みは地域だけでなく業界全体が変化する必要があるため、社会に与えるインパクトの大きさを重視し、NPO等ではなく株式会社としてビジネスを展開しているという。

 

「単一の樹種とともに多様な樹種」で守る自然資本

 鈴木さんは、日本の生物多様性の豊かさについても語る。日本が島国であること、そして北から南まで多様な気候区分と地形の起伏があることが、固有種の多さにつながっているという。特に栃木県は、鹿沼市内の標高差だけでも多様な環境が存在している。また、奥日光の戦場ヶ原には北海道の鳥類が生息している点など、非常にユニークな生物多様性を持っていると話す。

しかし、栃木県では戦後の拡大造林によって広葉樹林が針葉樹林に変わったことで、生き物の層が大きく変化した。単一の樹種だけでなく、多様な樹種を意識することが重要だという。

鈴木さんは「地域の自然資本はその地域のアイデンティティだ」という。これが鳥や虫がいなくなることの「何が問題なのか」の答えだ。多様な生物が失われることは、その地域の豊かさが失われ、単純化されてしまうことにつながる。だからこそ、山作りの立場から地域の自然資本を守り、木や生き物の多様さを維持していくことに尽力したいと語る。

 今回のラジオの事前取材では、鈴木さんが鹿沼市にある仕事場の山を案内してくれた。そこには、トチノキやヤマザクラの木々、美しい鳥の鳴き声、トンボやチョウなどのたくさんの昆虫の姿があった。幼い頃から当たり前に感じていたこの環境は、日本の素晴らしいアイデンティティである。多様な生き物が棲む日本の山を守るために私たちが最初にできることは、その素晴らしさを、自分の肌で感じることかもしれない。(ラジオ学生 加藤)