「歴史に残る最悪の複合災害」としての原発事故
4月23日は「次世代に伝える。原発避難13年目ラジオ」。今回は宇都宮大学国際学部教授の清水奈名子先生をゲストに迎え、原発事故そして事故後の市民の取り組みについて話を聞いた。清水先生は震災や原発事故の話をするとき、当時を思い出して気持ちが沈むかもしれないと被災者のことを気にかけていた。しかし13年が経った現在も放射能は測定され、その影響は未だに続いている。震災当時を知る大人の責任として「何が起きたか」「何に気を付けなければならないか」を後世に伝えなければならないと、原発事故について話し調査や研究を続けてきた。
2011年3月11日に発生した東日本大震災。その被害の1つである原発事故では、地震・津波による機械の破損に加え、「常に冷やし、閉じ込め続けなければならない」核燃料が溶けて(メルトダウン)、放射性物質が外部に放出された。これは事故発生までは「起こらないだろう」とされており、歴史に残る最悪の事故だった。当時の被災者は、地震や津波の対策だけでなく、原発事故にも向き合わなければならなくなった(複合災害)。
ボランティアで土壌測定、甲状腺検査。健康を守るための市民活動
放出された放射性物質が市民の生活や健康にどう影響するのかを知るため、また不安な思いを解消したいと多くの市民がその調査にボランティアで取りかかった。その一つに土壌測定がある。放射性物質には様々な種類があり、その中でも放射性セシウム137は特に量が多く土に付着する性質を持つが、半減期までに30年という長い時間がかかる。福島県を超えて東北の県や栃木、群馬、長野にも被害は及んだ。結果は「みんなのデータサイト」(https://minnanods.net/)に土壌汚染マップが公開されている。場所や年度、農作物ごとに詳細な土壌汚染の数値を知ることができる。
がん発症240人の異常さ。でも国がやらない甲状腺検査
他には甲状腺検査がある。放射性物質(放射性ヨウ素)は喉の甲状腺にたまりやすく、甲状腺がんを発症することがある。政府は福島県のみを対象として甲状腺検査をしたが、福島県周辺の栃木県、茨城県、群馬県、千葉県、宮城県にも甲状腺がんのリスクはあった。環境省に「周辺の県にも検査を」という要望が多数あったものの、政府は「そこまで影響はない」として検査は実施していない。
放射性物質と甲状腺がんの因果関係を正確に数値で示すことはできない。しかし100万人に1人か2人の発症と言われる甲状腺ガンは、原発事故以降に240人を超え、明らかに異常だった(注1)。そこで福島県外でも市民の手により甲状腺検査を開始した。検査をすることで不安が解消され、甲状腺がんの早期発見につながる。現在は原発事故当時子どもだった人が、自らの意志で検査をしに来ることもあるという。
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福島原発事故は世界史上最悪の事故となった。そして市民は自分たちの健康と生活を守るために立ち上がった。私たちは、それらを後世に伝えているだろうか。清水先生は「福島出身の人でさえ、原発事故を一から十まで説明できる人は少ない」と言う。私たちラジオ学生は引き続き「あの日何があったのか、現在はどうなったのか」を追求し続けていこうと思う。(立花)
注1)2011~2013年までの3年間、0~18歳の福島県内の子ども26万9354人を検査した結果、甲状腺ガンの悪性ないし悪性の疑いは75例あった。通常0~18歳の甲状腺ガンは100万人に1~2人であり、50倍の発生率、明らかに異常である。政府や福島県は、小児甲状腺がんと原発事故の因果関係は「現時点で認められない」との立場だ。