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「自分を知る方法」も「カラオケで歌う時のコツ」も教える。障害者の人生の選択肢を広げられる場所

3/23は社会福祉法人こぶしの会の県東ライフサポートセンター真岡(以下=サポートセンター)のサービス管理責任者・主任を務めている小野敦生(おのあつき)さんに話を聞いた。小野さんは、「働く」ことについて社会の歯車に乗ろうとする「がけっぷちさん」の助けっとさん。ここでは、就労継続支援B型事業(※1)と就労移行支援事業(※2)を行っており、就労支援事業について話を聞いた。

 

●障害者自身が「自分を知る」

 サポートセンターで就労訓練の初めにやるのは、「自分を知る作業」という。障害者本人が「自分がどこから情報を得るのが得意なのか」を見極め、口頭指示だけで十分なのか、手振りもあると理解できるのか、それとも静止画を見ないとその指示(仕事)を把握できないのか、などを本人と一緒に見つける。そこから、自分に必要な支援が何か自分で考える。

また、定期的に気分の変動がある人は「自分の気分が落ちる時のサインや予兆」を認識し、その対策を見つける。これを自分で行うことで、家族やスタッフの理想や使命感、正義感の押しつけとなってしまわず、自分の意思で受けたい訓練を選べるようになる。

ようするに、自分のトリセツ(取扱説明書)を自分で作っているのだが、これは私たち学生にも必要だと思った。学生など一般の就職活動でも自己分析が必要だが、サポートセンターでは実際に作業をやってみて自分の得意不得意を判断できる。このシステムにとても驚くとともに、自分だけでやらなくちゃならない私たち学生よりも格段に優れていると感じた。

 

●私たちにとっての大学・専門学校のような役割

 “就労支援を行うサポートセンター”と聞くと、仕事直結のパソコンの使い方や面接練習などイメージする。確かにそれも行うが「お茶の取り方」、「カラオケで歌うときのコツ」などもあった。一見、就労とはまったく関係ない。

 なぜこんなことも教えるのかと小野さんに尋ねると、答えにハッとさせられた。

「障害を持つ人の学校に、特別支援学校が高校3年生まではありますが、その先に進学できるところがない」という。健常者であれば、大学や専門学校に進学するか就職するか選択できるが、彼らには就職の選択肢しかない。だから、大学などで身につく「若者のふるまい」のような社会性を体験できるプログラムも用意してあるという。

作業一辺倒ではなく、一昔前では学んだり体験することができなかったことを障害者でも体験できる、「世界が広がる場所」[T1] でもあるのだなと思った。

 

●「100%の支援が良いわけではない」

「100%の支援が良いわけではない」。小野さんから聞いた話の中で1番印象に残ったフレーズだ。サポートセンターは、利用者が社会に出た時に困らないよう訓練を行うところだ。そのため、全部利用者の思い通りにしたり、「利用者が不愉快に感じることはしないようにする」と、社会に出ても「自分に不都合・不愉快なことが起こった場合」に対処することができない。

むしろサポートセンターは対処能力を磨く場所で、本人の周りにそのようなことが起こった場合にどう対処するかを探し、事前に(本人と一緒に)対処方法を見つけておく場所でもある。だから、限りなく100%に近い支援をしてしまうと、むしろ利用者のためにならないのだ。初めて聞いたときはとても驚いたが、サポートセンターの意味を考えると確かにその通りである。

◆ ◆ ◆

障害者も障害がない人も、自分がどのような人間なのか、そして自分の得意不得意はなんなのかを見極めることは、自分の人生を大きく左右するように思う。このサポートセンターで様々な体験・訓練をし、就職の準備ができた利用者を、ぜひ企業は暖かく迎え入れて欲しい。

(小浜)

 

 

※1)就労継続支援:A型とB型があり、どちらも一般企業では雇用されるにくい障害者の仕事の能力向上を目指す社会福祉事業。A型は雇用契約を結び、最低賃金以上の給料をもらう。B型は授産的な活動を行い施設の平均工賃(最低賃金以下)をもらいながら利用する。

※2)就労移行支援:企業への就職を目指す65歳までの障害者を対象に、就職に必要な知識やスキル向上のためのサポートを行う。