司法ソーシャルワーク…法律で解決できるは氷山の一角。 [福祉・医療・司法の連携で]紛争が起きる前になんとかしたい。

 

「司法アクセス障害」で泣き寝入りの人を救う。

 

 4月9日のラジオのゲストは弁護士の鈴木彩葉さんでした。鈴木さんは法テラスに常勤するスタッフ弁護士です。法テラス(日本司法支援センター)は国が設置した法律・訴訟に関する総合案内所です。

 過疎地域は弁護士が少なく、弁護士がいる県庁所在地等に行くのも大変。費用も心配。また人の属性としては高齢、病気、障害等がある、さらに外出できない、また法的トラブルに気付きづらい…など。つまりこれが「司法アクセス障害」なのです。法テラスは電話や面談での情報提供、無料の法律相談・出張相談、弁護士費用の無利子での立替え(分割払い)をして、司法アクセス障害を減らすことをやっています。

 

「借金問題」その背景に、障害・仕事続かず・低所得・家族不和・自分のお金が使えない・・・など水面下の福祉的課題。

 

 鈴木さんには日々、様々な相談が寄せられます。例えば、借金問題といってもその背景には、障害があり仕事が続かず低収入、家族の不和で自分のお金を使えない、高齢で判断能力が衰えて余計な契約をしたなどがります。障害・ハンディキャップ・低所得などの個人の属性が「借金トラブル」を生んでいるのです。

「思ったのは、弁護士が解決できる法的トラブルは氷山の一角で、水面下の根本原因が解決されないと、同じことの繰り返しになる。いろいろな関係機関との連携が必要ですね」と鈴木さん。

 

2018年1月からスタート 福祉関係者が相談できる「特定援助対象者法律相談援助制度」

 

「司法ソーシャルワーク」とは、自治体、福祉、医療、法律がチームになって、様々な問題を総合的に解決する取り組みです。最近のものでは2018年1月にスタートした「特定援助対象者法律相談援助制度」。高齢や障害で認知機能が不十分な人を支援している福祉関係者から法律相談を申し込むことができる制度です。法テラスに申込みがあると、弁護士を本人の自宅や入所先の施設に派遣して出張相談をします。

「チームを考えるとき、司法も加わりたい。これまで法的な支援が行き届かなかった人たちにも、この制度を利用することで必要な司法サービスを届けたい」と鈴木さん。

 実際にあったのは、躁うつ病(双極性障害)で「躁状態のとき、払えるメドがないのに車を何台も契約した」、認知症や知的障害で「悪徳商法や詐欺のターゲットにされるケース」。

 支援者が「もしかしたら、本人が法的なトラブルを抱えているのでは…」と気づいたら、申し込んでほしいと鈴木さん。福祉や医療の現場と一度つながると、顔が見える関係になり連携関係ができる。

 逆に司法の方から社会福祉協議会や地域包括支援センターにつなげることもよくあるそうです。法的問題の下にいろいろな問題があると感じたら関係機関に積極的に連絡します。「自分一人じゃできなかったことも、支援者とのつながりで解決の方向に行くことができる」と鈴木さん。

 法テラスのスタッフ弁護士の強みは、こうした司法ソーシャルワーク活動。出張してケース会議へ参加したりするのが日常業務という弁護士です。

「ひとりでも多くの支援者とつながり、ひとりでも多くの方の法的問題を解決したい」と今日も出張相談先へ車を走らせます。

 

法テラスの専属弁護士。連携体制の確立はこれから。持続可能な連携体制をつくりたい。

 

 

 コメントおじさんの中野さんが「こんなにアクティブな弁護士さんは見たことがない」と言うほど熱意ある鈴木さん。「特定援助対象者法律相談援助制度」があまり知られていないため、現場で働いている支援者に知って欲しいとシンポジウムで講演もしています。また勉強会に参加したり、専門学校で社会福祉士になる勉強もしているそうです。

 鈴木さんが嬉しかった言葉は「ありがとう」。「遠慮せずに、相談してもいいんだ」「弁護士を身近に感じた」という言葉です。

 法テラス栃木での任期は3年。担当が変わると、これまで作り上げたつながりがなくなることも心配されます。そこで、人が変わっても持続可能な連携体制を構築できるように地方事務所全体で力を入れています。鈴木さんの活躍で、地域のセーフティネットがより広く、より丈夫になっています。そんな社会を作る一員に私たちもなっていけるといいなと思いました!

 

●取材後記●

 鈴木さんが、相談者と信頼関係を築くために意識するのは「共感すること」「鳥の目を持つこと」「謙虚な気持ちで接すること」。

 寄り添いながらも弁護士として一歩引いて解決に導く。その姿勢に私も共感しました。「その人ごとの生活史があり、受けとめるのも仕事」と鈴木さん。また、弁護士さんはスーツのイメージですが、相談のときに堅い印象にならないように、柔らかい服装を心がけているそうです。(笠原綾子)