〝半農半X〟…新たな農業のカタチ挑戦中! わたね・倉本さん

野菜と弁当から生まれるコミュニケーションが、地域のミライをつくる

  1月29日のゲストは市貝町で夫婦で有機農業をしている「わたね」の倉本ゆうきさんでした。「わたね」では育てた野菜を使ったケータリングのお弁当も届けています。ラジオでは倉本さんにありそうでなかった新しい農業のカタチをうかがいました。

 

[人つながりは、一つながり]

カフェなどでの出会いが自然と農業に

 倉本さんは県外の出身で10年前に来宇、2treeCafeというカフェを経営していました。お店はミュージシャンや農家さんなど「思いを持って何かを生み出す人々が、多様な交流をする」場所でした。小さなお店だけど、そこでの出会いが今の自分たちにつながっている、と倉本さんはいいます。

 その後、カフェを引き継ぐかたちで「出会った人たちが学びを共有できるようなオープンハウス」のオーナーに。勉強会やワークショップで楽しみながら暮らしの知恵を共有し、生活が豊かになっていくような場作りをしていたそうです。そこでもいろいろな農家さんと出会いががありました。農家さんの農園にお客さんとともに集い、みそや梅干しなどの保存食や加工品を作る会をしていました。倉本さんが大切にしてきた料理や出会いは、倉本さんを自然に農業に導きました。「旬の野菜を収穫してみんなで食べるおいしさはとても素晴らしくて、だんだんと農業への思いが強くなってきて、自分も畑を持って野菜を作りたい…と、今に至っています」。

 新規就農でしたが、18年間有機農業を続けている先輩〝新規〟就農者に1年間弟子入り。地域との関わり方も学びました。カフェ時代に知り合った農家も新規就農の人がほとんどで、倉本さんも尻込みする気持ちはなかったそうです。

 

お弁当箱からコミュニケーションが生まれる

 「わたね」は農薬や化学肥料を使わない有機農業で露地栽培の旬のものを育てています。年間で60種類くらいの野菜と大豆、小麦を栽培しているそうです。最近では昨年ラジオに出演していただいた有機専門の八百屋「森の扉」のにんじんジュースの原料も栽培。「筑摩野五寸人参」という固定種(形質が固定した種、在来種)のとてもフルーティーな甘さのにんじんは、自然栽培で肥料を使わず土本来の力で育てました。「はっとなるようなおいしいにんじん」と話す倉本さんから農業の楽しさが伝わってきました。

 また、「わたね」ではパーティー、イベント、ミーティング時にケータリングのお弁当という形で料理を届けています。倉本さんの奥さんはもともと管理栄養士で、栄養の伝え方、食を通したコミュニケーションを模索してきたといいます。これまでのお二人の学びを生かした働き方、野菜を育て料理し届けることは、二人三脚でないと成り立たないところもありますが、いっしょに楽しみながらやっていると倉本さん。「どういう環境で育て、どういう味わいでどんな風に食べていただくか、一貫して考えてお届けすることができるので、ものすごく楽しい」とのこと。

 お客さんとのつながりで大切にしているのは「思いを共有できること」と言います。お弁当から興味を持って畑に来てくれたり、コミュニケーションが生まれたりする。野菜を届けるだけでなく対話して何かが生まれる、そんな瞬間を作り出せるのは、農業も料理も大切にしている「わたね」ならではです。

 

技術の発展も、農業の伝承も、どちらも欠かせない。

 コメントおじさん塚本さんによると、日本の農業従事者は2010年から2018年の8年間で85万人少なくなり、平均年齢は65.8歳から66.8歳に上がっています。10年後、20年後を考えたときに、農業をする人はもっと少なくなります。さらに、農業を支えてきた中山間地域では高齢化と過疎化が進んで集落を越えて町単位で消滅してしまうことが心配されています。茂木町では65歳以上の人口が4割を越えているといいます。

 高齢で仕事できなくなったときに地域を支えていくことは難しく、頑張って続けてきた農地も受け継いできた野菜たちも無くなってしまう。「じゃあ、若い人は田舎に行って農業分野に仕事として取り組んでいけるのか、自分たちに合った暮らしを作っていけるのか」と塚本さんは問いかけます。

 最近では農業ロボットやAIを使った農地管理などが提言され、移行期間に向かおうとしています。例えば無人で動かせる農業機械や重いものを持つときに体を支える補助ロボットの開発が進んでいます。

 しかし農業が培ってきた生き方の哲学や、時期に応じた栽培の方法などの伝承は、ロボットやAIには置き換えられません。倉本さんは技術の発展と地域で続いてきた農業の伝承、そのどちらも必要だと言います。

 「昔から伝わる日本の農村の知恵、例えばエネルギーがなくても、山から資源をいただき大切に使って、野菜作りにつなげていくという素晴らしい仕組みがあります。そういうものを私たちからも次の世代につなげていくのは非常に大切です」。

 さらに「担い手が一人でも二人でも増えていくのは、とても大きな力になっていく」と倉本さん。「半農半X」という、主となる仕事を持ちながら、半分は農業に携わるというライフスタイルのようにミニマムな農業もありと言います。自分たちの食べるものを作りたい、小さな畑をやってみたいという興味から始まり、農業が広がっていきます。そして、支えてくださる先輩農家さんのように、自分たちも元気が与えられる働き方がしたいとおっしゃっていました。

 

農業はアート!? いろいろなスタイルがあるのが面白い

 塚本さんは、これから農業の魅力、可能性がさらに花開くのではないかと考えています。生きるとは何か、感性を刺激するものは何かという問いや、コピーできない体験をして、何かを感じることの価値…。そういった時代が求めていることと、農業が新しく組み合わされて、地域を支える産業になる動きがでてくるのではないか。若者が、自分のアイデアを農業に当てはめて広げてみる、その一つを切り開いているのが「わたね」さんだとおっしゃっていました。

 倉本さんも「農業はアーティスティックなもの」で種から生まれる個性も育てた人次第、畑にはアートセンスが表れると言います。「野菜を育て料理することは、頭や心にある思いを、食べ物を通して伝えていくことです。それを生み出していくのはエネルギーを必要としますが、そのぶん生きがいにもつながります。いろんな人のいろんな形、それぞれの個性が生かされていくと、地域が素敵になっていくのではないでしょうか」。

 「わたね」のお弁当はホームページからメッセージいただければご要望に合わせておつくりします、とのこと。また、FacebookやInstagram(watane.shunsai)でも、「わたね」を知ることができます。伝わってくるのは、真剣に軽やかに農業の課題をときほぐす様子でした。倉本さんのように新たなカタチで農業を伝えていく、積み重ねの先に農業のミライがあるのではないかと思います。(笠原綾子)