20年前の「前例のない活動」から生まれた「医療的ケア児の日中預かり」

 今回はNPO法人うりずんの内尾奈々子さんに話を聞いた。うりずんでは、重い障がいを持つ子どもたちとその家族を支える活動をしている。日中預かったり、家に訪問したりと、医療的ケア児と家族のための幅広い在宅福祉サービスを提供している団体である。

「医療的ケア児」と眠れない家族

「医療的ケア児とは、人工呼吸器や胃ろう、経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子供たちを指します」と内尾さん。そんな子も病院ではなくほとんどは在宅で暮らしている。例えば人工呼吸器をつけていると、1・2時間おきに痰の吸引をしなければならない。怠ると気管に痰が絡まり窒息してしまう。そのような状況で家族はどうなるか想像してほしい。何時間も続けて安心して眠れないだろう。そんな子供と家族を支えているのが、うりずんである。

制度の前に市民活動がある。うりずんが作ってきた福祉制度

うりずんができたのは2006年。当時は重度の障がいをもつ子供を預かる事業はなく、全国で初めての試みであった。

20年前、ひばりクリニックの院長の高橋昭彦さん(現うりずん理事長)は訪問診療を行っていた。ある重度障害の子供のお宅を訪問したとき、普段は母親が出迎えてくれるのに父親が出迎え事情を聴くと、妻が体調を崩したため自分が仕事を休んで子供を見守っているのだという。この状況をどうにかしたいと思った高橋さんは、クリニックに併設して人工呼吸器をつけた子供の日中預かり活動を始めた。これが後のうりずんである。

「医療的ケア児」という言葉もなく国の福祉・医療の制度も支援もなく、まったくの自力・自費での運営だった。共感する人に寄付をもらいながら続けていくうちに、数年後、宇都宮市が着目し、市単独の制度が作られた。その後、厚労省が「医療的ケア児」という視点から調査が行われるとともに、法律が制定されて国の施策が展開していった。いまでは全国に100か所以上の医療的ケア児の日中預かり施設ができている。うりずんの活動が新たな制度を生んだ。

 

「ただの預かり場所」でなく、子どもたちの楽しい居場所

うりずんは「3A」を大切な方針として掲げている。「安全」。医療的に安全であること。「安心」家族が安心して預けられること。そして三つ目のAは「安楽」。利用者本人が楽しいことである。「利用者本人が楽しめる環境でないと、親は施設に預けることに罪悪感を抱いてしまうんです」と内尾さん。

うりずんを見学したとき、医療用の精密機械がたくさん置いてあるにも関わらず、病院とは全く異なる雰囲気を感じた。病院は病気を治療する場所であるため、生活する場としては味気ないものである。白い天井を見つめるばかりの預かりで、体調を崩す子供もいるという。木を用いた開放的な空間には、子供たちが作った制作物があちこちに飾られている。天井には青空が描かれ、屋内にいても空を見られる。子供たちが安らいで楽しく過ごせるように工夫がなされていた。近年重要視されているQOLが意識されている場所だと感じた。最も印象的だったのは、壁に貼ってあった写真である。子供たちはもちろん、スタッフの大人たちも満面の笑みで写っていた。内尾さんも「うりずんでは、スタッフも全力で楽しむんです!」と笑顔で話していた。利用者は重度の知的障害・身体障害であり、意思疎通もあまりできずほぼ寝たきりである。そのような子供たちもサツマイモ堀りやプールなどの活動をできる範囲で楽しんでいるが、子供たちの楽しさの源泉は、周りの大人も一緒になって楽しんでくれることなのかもしれない。子供たちと家族の支えになるだけでなく自分たちも子供たちと一緒になって楽しむ。そんなうりずんの活動をこれからも応援していきたい。