行政にはできないこと。虐待をなくすための「民間団体」

 今回のゲストさんは、認定NPO法人「だいじょうぶ」理事長の畠山由美さん。栃木県日光市にある、子ども虐待防止団体についてのお話を伺った。

 

◇行政だけではなく民間団体を。社会問題への柔軟な向き合い方。

「だいじょうぶ」は2005年、畠山さんの「子どもへの虐待を無くしたい」という思いと、役所の意向により立ち上げられた。行政だけで虐待を止めることは難しい、今本当に必要なことに対して真摯に向き合い、動くことが出来るのが民間団体の強みである。最初は里親の研修を受け資格をとるなど、スキルを学ぶところから団体の活動が始まった。

 

◇世の中の子育てに対する理解のなさ

 行政からの委託を受けて始まったのが、24時間の相談所と、育児不安を抱えている家庭に向けた「ショートステイ事業」。畠山さんは初めての活動でどんな人たちが来るのか、少しの不安とともに待っていた。そんな中、行政から夜11時に「今から親子5人のショートステイをお願いします」と電話が来る。今日の今日で泊まるところがほしいと、シングルマザーの家庭が訪問したのである。お話を聞くと、家がゴミ屋敷になってしまい近所の苦情により追い出されてしまったとのこと。1か月ほど一緒に過ごし、畠山さんが感じたのは「世の中の子育てに対する理解のなさ」であった。

 

 1か月間母親と関わっていくうちに、母親自身も「ほとんど放置された家庭の中で勝手に育った」方だということが分かった。ご飯を作ろうにもメニューを知らない。洗濯やお風呂に関する正しい知識もないといった様子である。保健所から「料理洗濯、きちんとやってください」と言われても、やり方を知らないからどうしようもないというのが現実である。ショートステイ後、家族は安心して住まえる借家に引っ越した。

このお話を聞き、私たなか自身も虐待に関する知識のなさを痛感した。

 

◇大切なのは経緯「虐待」と言われてしまう以前の問題。

 「虐待と聞くと、ひどい親を思い浮かべるだろう。しかし実際に活動を通して見ると、虐待とは、孤立した中での子育ての中から生まれてくるものだとわかった。親から子への無関心ではなく、社会が家庭に対して無関心であることがこういった虐待を生んでいるのではないか」と語る畠山さんは、家庭がなぜそうなってしまったかの経緯の把握と、親への支援の大切さを伝えてくれた。

 

実際に家庭に入って一緒に教えないと解決しない問題があると気づき、新たに養育困難家庭への家庭訪問事業を始めた。家庭訪問を断られてしまうことももちろんあるため、「実家」のような母子の居場所「ひだまり」を作り、向こうから来てもらうような工夫をした。この支援事業は県全体へ広がり、国も目をつけ全国に広まっていった。支援が拡大するのは嬉しいことだが、国が目を付けたことから「家庭内に安心できる居場所のない子供たちが日本中にいる」という現実もあらわになる。畠山さんは複雑な表情をしていた。

 

 

 普通の生活が出来ていない家庭は身近にあるのかもしれない。今回のお話を伺って得た知識を持って過ごすことで、周りの小さな異変に気付けるようになれたらよいなと思う。(たなか)