2月15日のラジオのゲストは宇都宮大学国際学部教授の高橋若菜先生。地球環境政治や比較環境政治を専門とされている。原発事故後、新潟県で母子避難者の支援を行ってきた。新潟県のお母さんが孤立している様子を見て、「まま茶会」を作り、出てきた要望に対応したり、支援団体につなげたりといった活動をした。今回のラジオでは原発事故問題に関する活動に携わったきっかけ、具体的な支援内容、新潟県の行政と市民団体の災害対応がなぜ賞賛されるのかについてお話を聞いた。
大気汚染=公害としての原発事故
活動の動機は3つという。高橋先生の専門は大気汚染問題である。そのため原発事故による放射線物質が人体にどう影響を及ぼすのか早くから気付いていたという。しかし原発事故に関する情報を政府機関は公開していなかった。すると、その後の被害が見えづらくなるだけでなく、声を上げた人が「科学的な根拠がない」と後ろ指をさされることもあると気づき、活動を始めた。
2点目は、子供や乳幼児を守るためである。環境問題は利益を得る人がいる一方で不利益を被る人もいる。例えば、放射線は特に子供や乳幼児の健康に影響を及ぼす。そこで弱い立場にある人を守りたいという思いからだった。
そして3点目は、子どもを持つ1人のお母さんとして家族を守りたいという思いからだ。
日本の環境被害の裁判は長期戦。保障もわずか
高橋先生は東京電力と国を相手に、原告の「専門家証人」になった。きっかけは「原発の問題が、個別的なものではなく広域的な問題なのではないか」と原告の弁護士から相談を受けたことである。個別的な問題であれば本人に責任があるとされるため、専門家証人の仕事は「共通している課題を見出す」ことを目指す。
そうした裁判の経験から、日本の環境被害の裁判の問題は3つあると話す。1つ目は「日本の環境被害の裁判が長いこと」である。他国では1年以内で終わるのに対して日本では10年もかかる。2つ目は「被害者だけしか声を上げることできないこと」である。例えばドイツでは環境NGOが原告になれるという。3点目は「原発の影響を大きく受けた人以外の保障は少ないこと」である。実際「裁判が長期にわたるし、保障が出ても少ないため被害者が余計に苦しむ」と裁判に否定的なイメージをもつ弁護士もいる。が、声を上げていく必要があると高橋先生は話す。
「過去」を活かす新潟県の官・民の災害対応
新潟県の行政と市民団体は、中越地震や中越沖地震の経験を生かした有効な支援策を迅速に打ち出したとして評価されている。例えば、福島から発信される情報の提供を行ったり、避難者名簿を作成し福島県に提供するなど福島と連携して支援を行った。また避難者の声にもしっかりと耳を傾けた。「アンケートで『帰りたい』人数は出てくるが、その想いの強さや見通しなどは対面で話を聞かないと」という考えが職員全員に共有されていた。また被災者と支援団体をつなぐ中間支援団体があらかじめ育っており、パイプの役目を果たしていた。
我慢しないで発言する。「声を上げる」のは次世代のためにも。
最後に次世代に伝えたいことを聞いた。「様々なことを、我慢してやりすごすと辛くなる。若い人にはもっと思うことを発言してほしい」と高橋先生。
共感してくれる人は意外と多い。声を上げることは、次世代のためにもなり持続可能な社会につながっていく。震災から13年たち苦しむ避難者の姿はますます見えにくくなっていく。しかし幼児や子供など声を上げないものに代わって私たちが声を上げていくことで被害者の声を可視化させていかなければならないと感じた。
(ラジオ学生 佐藤)