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「闇の中で膝を抱える人に寄り添い続けたい」性暴力の相談「とちエール」

今回のラジオは、性暴力被害者相談センター「とちエール」の大塚さん、稲見さんに話を聞いた。センターは2015年に県の委託で済生会宇都宮病院内に設置された。レイプ、デートDVや痴漢、セクハラなど性暴力の被害者の、多様な声に耳を傾け、支援を届けている。

 

「顔見知り」からの被害が9割。年950件、増える相談

 相談者は1020代の若年女性が多く、今年(2021)の相談件数は約955件だった。350件の去年と比べ約2.5倍に増えた。日頃の業務と並行の相談業務のため、「電話があった時には、どたばたで駆けつけます」とスタッフ総動員の忙しい日々を送っている。相談の増加理由は「被害を相談してもいい」という認識が高まったこと。官民一体で性暴力根絶を願う「パープルリボン運動」や報道特番での特集、また告発する女性(元自衛官の女性)が現れるなど「相談してもいい風潮」ができてきたことも一因だという。

 性暴力の加害者は「顔見知り」が約9割を占める。「路上で襲われる」などの「レイプ神話」が根強いが、実は「身近な人」からの被害が多い。そして身近であるゆえに「公にしづらい」ということもある。家族や知人、学校、部活など上下関係での被害も相次いでいる。公になりづらいもう一つの理由は、相談者に「自分も悪かった」という思いがあるからだ。しかし「派手な格好をしていたから」「暗い夜道を歩いていたから」「ミニスカートをはいたから」といって「決してあなたは悪くない」とまっすぐに大塚さんは言った。

 

「なんとか切れないように」慎重に電話をとり、来所を促す。

 とちエールは病院との連携により、すぐに心身の受診や治療が開始できる。他県の相談センターでは相談室のみの所も多く、早急な対応ができないこともあるという。妊娠や外傷の心配がある場合など急を要する対応がとりやすく、すぐに処置ができるのがとちエールの強みだ。

支援の流れは電話相談から始まる。電話だけが被害者を救う手段であるため「何とか切れないように」と注意を払い対応する。その後、来院を促す。これは一番心配な心身のケアは、来院があって初めて可能になるためだ。「病院にある」というのは来院を促すうえでも強みになるのである。来院後は、治療のほか、今後の安全確保の問題や警察や弁護士への被害の相談についても話し合われる。しかし被害者が望まない場合には警察や弁護士に相談することはない。一緒に考え、相談者の選択を尊重し、無理強いしない。

 

「とちエールを頼ってほしい」。他機関との連携で被害者を救う

 

とちエールとしては「犯人が味を占めることがあってはならない」という思いもある。しかし「復讐が怖い」「話したくない」「親に迷惑かけたくない」人も多く、無理やりなことはしないという。また警察への相談となった場合も、警察ととちエールの連携が生かされる。被害者は「思い出したくない」こともある。何度も同じ説明をしないですむように、事前に情報を伝えることで繰り返し話をする負担を減らしている。

ときには30年前の被害の相談もある。昔は相談できるところがなかったため、心にしまいこんでいたが、苦しみを吐き出したかったという女性だった。「相談できてよかった。こういう相談の場所があってありがたい」と感謝してくれる人の声も励みになる。

このように現在の被害でなくても、気軽につながってほしいと大塚さんはいう。今後も連携力という強みを生かし、困っている人への支援をしていきたいという。稲見さんも「闇の中で膝を抱える人に寄り添い続けたい」と「性暴力の被害は、とちエールを頼って」と呼びかけた。

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 性の問題は、日常の中で語られづらい。しかしタブー化されることで、受けた被害が当たり前か異常かの判断もつかず、対処が遅れることもある。

 稲見さんは「3歳くらいから子どもへの性教育が大切」と、性被害に気付きにくい子どもにも早くから身体を大切にすることを伝えたいと話した。最近では幼少からの性教育の大切さが言われ、水着で隠れる部分を「プライベートゾーン」と形容するなど、子どもにわかりやすく教える動きもあるという。幼少からの性教育は、「理解できない」と子どもを子ども扱いしてきた以前の形ではなく、大人が「気づける子ども」を育てる責任が問われる新たな過程だといえる。

●相談専門ダイヤル028-678-8200(平日9001730、土曜9001230、※夜間休日はコールセンターで相談できます)