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味方するが共感しない!?「話し合いの専門家」ご近所トラブル解決します。

 鈴木さんは「東京メディエーションセンター」を設立して今年で6年目になる。ここは、ご近所問題、家族問題などの身近なトラブルを「第三者を入れた話し合い」を用いて解決している。きっかけは、某ボランティアセンター(以下ボラセン)で働いていた時のご近所問題だった。

 一人暮らしのおばあちゃんは、近所の人から嫌がらせに困っていた。ドアノブをガチャガチャされることも、洗濯機に残飯を入れられることもあった。それに困った地域のケアマネージャーがボラセンに相談してきたのだ。ケアマネージャーは「身体の大きい男性が一緒にいるとわかれば、相手が嫌がらせをやめるのではないか」と考えた。

確かに、身長180cmの鈴木さんが出入りすることで嫌がらせは止んだという。しかし「それって意味あるのか。本当は隣の人の話を聞かないとダメだ」と思い始めた。その矢先、近くで近隣トラブルによる殺人事件が起こった。ご近所問題には行政は立ち入りづらく、警察も事件にならないと対応してくれない。

 

米国で見た「犬うるさい問題」、仰天の解決策!

 解決策を求め、ご近所問題の専門家である八戸工業大学の橋本先生に連絡をとった。先生は騒音問題を研究していて、「音をいくら小さくしても近隣トラブルは無くならない」ことを発見した。つまり、騒音問題は音量の問題ではなく、人間同士の問題だった。その先生に「アメリカに参考になる事例があるから行ってみれば?」と言われた。見学したアメリカの州では、争いが法廷に持ち込まれる前に、当事者同士での話し合いが進められる。彼らの話し合いの段階をサポートするのが、「メディエーター」の役割である。その費用は裁判所が負担だ。鈴木さんはその話し合いの様子をアメリカに行って見学しながら学んだ。

「犬の声がうるさい」というAさんと、犬の飼い主Bさんのトラブル。

Aさん:「犬はなぜうるさいのか?」と聞く。

Bさん:「吠えるのは、腹が減っている時か、遊びたいときだ」。A:「餌をやっていないのか?」、B「餌はやっている」、、、と話し合いは続き、数時間後、思いもよらない解決策がでた。

Aさん、「じゃあ、俺が犬の散歩をしてやろう」

 

 鈴木さんはこの話し合いの結果にビックリ。ご近所トラブルを申し立てた本人(Aさん)が自ら解決策を出し、実践するという。鈴木さんはこの出来事からメディエーションの可能性を感じた。その後もイギリスに留学し勉強を重ねた。

 

夫婦間トラブル。妻が求めていたのは「夫」と話すこと

 2016年に「東京メディエーションセンター」を設立した後は、東京を中心にご近所問題や家族問題などの相談を請け負う。特に難しいのは、家族問題のメディエーションだ。原因が判明しやすいご近所問題と比べ、家族問題は原因が一つではないためだ。

ある時、「子どもの受験について話したいが、夫と話せない」という相談がきた。鈴木さんは、「嬉しい・悲しい・困っている・嫌だった」などという相手の感情を引き出しながら、仲介していった。夫妻は次第に鈴木さんを介して話すことが少なくなる。結果、「子供の受験」の話題は出ることなく、「もう十分です」とすっきりした顔で帰っていった。それは2人が「話せる関係」に戻れたことを示していると鈴木さん。妻が求めていたのは「子どもの受験について」話すことではなく、「夫と」話すことだった。

 鈴木さんは「人間関係がこじれた時は、感情の吐露があると関係が修復されていく」と言い、相手の感情を知ることで変化が生まれると言う。

 

味方するが、共感しない。メディエーターの極意

 メディエーターとしての鈴木さん自身は、意見は言わない。当事者に「鈴木さんはどう思いますか?」と聞かれても意見はしない。それは「中立」を守るためだ。「どっちの味方でもある」という姿勢でなければ、仲介役としての信用は得られないという。「共感ではなく理解」をどちらにも示すことが大切だという。そんな鈴木さんも、時には一方の味方になりそうなこともある。その時は「自分が好む考え」であることを自覚して、意識的に「うなずく回数を増減する」など、中立を守る努力をする。「裁判官や先生など偉い人が強制的に決めたことではなく、自分たちが決めれば納得できる」というのがメディエーションなのだ。

 

13万円は高い?! 実は「話し合いの席に着く」までが一苦労!

 気になる費用は、1回3万だ。これには相手との交渉も含まれる。鈴木さんは「こっちはしんどいが、高く感じますよね」と困ったように笑った。人の話を聞く気苦労に加え、相談した人がもめている相手への交渉にかなり時間がかかる。そもそも問題を問題と認識していない相手に問題をわかってもらわねばならない。そこから話し合いのテーブルに座ってもらうためには、かなりの労力がかかるという。それでも鈴木さんは「メディエーターを利用してください」と、問題が小さいうちに頼ってほしいと話す。

ラジオのエンディングに鈴木さんが選んだ曲は、かりゆし58の「アンマー」だ。「木漏れ日の様なぬくもりで、深い海の様な優しさで全部全部私のすべてを包み込んだ」という歌詞は、鈴木さんのメディエーターとしての思いを象徴しているようだった。

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 「メディエーションセンター」を運営している団体はまだまだ少ない。どんな人の周りにもいるお隣さんや家族。その問題を解決する場所がないのはどうしてか。鈴木さんも指摘している通り、世の中は「偉い人に強制的に決められたもの」に満ちている。偉い人が決めたから、正しいのだろうか?だから価値があるのだろうか?それによって、自分で考えようとする力が失われているのかもしれない。(鈴木花梨)

 

宣伝:東京メディエーションセンター ●電話070-1479-1777 (月曜10-17)

●メールinfo@mediationcenter.jp ●HP: https://tokyo.mediationcenter.jp/